頓服で使用したPPI(オメプラゾン、タケプロン、パリエット、ネキシウム)の効果について

 

頓服で使用したPPI(オメプラゾン、タケプロン、パリエット、ネキシウム)の効果について

 

逆流性食道炎の治療で処方されるPPI(オメプラゾン・タケプロン・パリエット・ネキシウム)の用法は1日1回(または1日2回)定期服用する事になっていますが、実際に患者様からお話を伺うと「先生からは胸焼け・胃痛を感じた時だけ頓服として使用してもいいよ」という指示がなされているケースを何度か耳にしたことがあります。そこで今回はPPIを頓服使用したときの効果について4製剤のPPIについての情報をまとめました。


パリエット錠(ラベプラゾールナトリウム)

 

パリエット10mgを頓服使用したデータはないのですが、パリエット10mgの服用を開始した1日目のデータがインタビューフォームに記載されています。投与1日目と投与7日目の効果を比較することで頓服使用した際の効き目についてある程度推し量ることが可能と考えます。

 

投与1日目

朝食後にパリエット10mgを服用してから1時間後の酸分泌減少率:75.5%

朝食後にパリエット10mgを服用してから2時間後の酸分泌減少率:71.6%


投与7日目

7日間パリエット10mgを連続服用後、1時間後の酸分泌減少率:95.8%

7日間パリエット10mgを連続服用後、2時間後の酸分泌減少率:90.4%


パリエット錠を製造販売しているエーザイが保証するパリエット錠の効き目はあくまで、連続服用してパリエット錠の効き目が定常状態(安定した段階)に達した状態です。そのためパリエット錠の服用を開始して7日間服用した段階での効き目はメーカーが保証していますが、1日目服用後の効き目については保証がありません。

 

とはいえ、朝食後にパリエット錠10mgを初日から70%以上の酸分泌抑制効果が確認されておりますので、胃酸分泌70%OFFの状態で「効いたぁ」と思う方に取っては頓服使用が有用な用法であると私は感じます。

(尚、パリエット錠20mgの場合は服用1時間後の酸分泌減少率は88.7%となっております)

オメプラゾン(オメプラゾール)

 

オメプラゾン20mgを頓服使用したデータはないのですが、オメプラゾン20mgの服用を開始した1日目のデータがインタビューフォームに記載されています。投与1日目と投与7日目の効果を比較することで頓服使用した際の効き目についてある程度推し量ることが可能と考えます。


オメプラゾン20mgを7日間連続服用したときのオメプラゾンの血中濃度は、初日服用後の血中濃度に比べて1.4倍に増加するというデータがインタビューフォームに記されています。オメプラゾンを販売している田辺三菱が効果を保証するのは定常状態に達した段階ですので、初日服用後のオメプラゾンの血中濃度は

1÷1.4=0.714

と計算することができます。(7日間服用後の血中濃度が初日の1.4倍より)

 

偶然かどうかわかりませんが、オメプラゾン20mgを服用した初日の血中濃度は定常状態の70%前後の値ですので、初日服用≒頓服と捉えるのであれば、オメプラゾン20mgもパリエット10mgも頓服使用により70%前後の効果が期待できると考えることができます。



タケプロン(ランソプラゾール)

 

パリエットやオメプラゾンは連続して7日間飲み続けることで、胃酸分泌抑制効果が上昇してくる製剤であるのに対して、タケプロンは1日目のデータも7日目のデータも、ほとんど同じような薬物動態(血液中でのタケプロンの濃度)を取ります。この理由として、タケプロン錠を朝食後に1錠飲んだ場合、24時間後にはほとんどのタケプロンが血液中から消失してしまうためです。そのため2日目にタケプロンを飲んだ場合も3日目にタケプロンを飲んだ場合も、前日までに服用したタケプロンが血液中に残っておりませんので(累積残量がゼロ)、1日目にタケプロンを飲んだ状態と同じ薬物動態(血液中でのタケプロンの濃度)をとることになります。

 

一方で、胃酸の分泌状況について確認してみると

空腹時にタケプロン30mgを服用して2~3時間後の胃酸分泌抑制率:97.4%

空腹時にタケプロン30mgを服用して24時間後の胃酸分泌抑制率:52.1%


 

タケプロンに関する以上のデータをまとめますと、タケプロンを服用してから24時間以内に血液中のタケプロン濃度が0となるため、連日服用を続けても血液中のタケプロンは累積しない(24時間以内に濃度が0となる)薬であることがわかりました。言い換えますと血中濃度としては定常状態を持たない薬と言えます。一方で、胃酸分泌抑制効果は服用から24時間後も50%程度は残っていることがわかりました。

 

本題であるタケプロンを頓服使用した場合の効果を考えますと、血中濃度だけを見ると頓服使用で十分な効果が得られるように感じます。しかし、実際の胃酸分泌抑制効果では異なります。タケプロンを連日服用した場合、24時間前に服用したタケプロンの胃酸分泌抑制効果が50%ほど持続した状態でタケプロンを服用することになるのに対して、頓服でタケプロンを使用した場合は、“前日飲んだ薬の効果”がありません。


あくまで計算上の話ですがタケプロン服用から2~3時間後における胃酸分泌抑制率を計算してみますと

頓服による胃酸分泌抑制率:97.4%

連日服用による胃酸分泌抑制率:97.4%+52.1%(前日に飲んだタケプロンの持続効果分)

 

となります。連日服用の場合、計算上は100%を超えるので、何とも言えないところではありますが、前日に飲んだタケプロンの胃酸分泌抑制効果が当日服用したタケプロンの効果に上乗せされるという考えは個人的には相応しているように感じます。この場合、頓服したタケプロンの効果は連日服用したタケプロンの効果と比較して65%程度の効果と考えることができます。


ネキシウム(エソメプラゾール)

 

インタビューフォームには「ネキシウムの胃酸分泌抑制効果は血中濃度に相関しない」と記されており、ネキシウムを単回(1回投与)した時の胃酸分泌抑制率に関するデータがありませんので、ネキシウムを頓服した際の胃酸分泌抑制効果を推測することはできませんでした。

(通常は連日服用することで逆食を予防する薬であるためです)

 

ネキシウムの胃酸分泌抑制効果は血中濃度に相関しないとはいいつつも、血中濃度が高い状態であれば、ある程度の胃酸分泌抑制効果は出ていると思います。相関しないとは言いつつも、単回投与したときと連日投与した時の血中濃度を比較してみると

 

ネキシウム10mgを1回飲んだあと、2時間後の血中濃度:245.2ng/ml

ネキシウム10mgを連日服用し、5日目投与から2時間後の血中濃度:376.5

 

何度も記しますが、ネキシウムは胃酸分泌抑制効果と血中濃度は相関しませんが、頓服で使用した場合の血中濃度は連日服用した場合の65%程度の血中濃度であることがわかりました。胃酸分泌抑制効果が65%となるかどうかはわかりません。



まとめ

 

頓服でオメプラゾン・パリエット・タケプロンを服用した場合、連日服用した場合の効果と比較して65~75%程度の胃酸分泌抑制効果が期待されることが示唆されました。効果発現時間に関しては1錠服用後、1~3時間程度経過した時点で65~75%程度の胃酸分泌抑制効果が示されています。上記のPPI3剤を頓服として使用する適応症はありませんが、「頓服で使用可」と指示がでていて「効果もでている患者様」においては、頓服という使用方法も効果的なのかもなぁと思いました。


ネキシウムカプセルに関しては血中濃度と胃酸分泌抑制効果が相関せず、単回投与による胃酸分泌抑制率に関するデータがないため何とも言えませんが、おそらく上記3剤と同様な感じかなぁと思ったりします。


逆流性食道炎治療薬PPIまたはH2ブロッカーの使用による鉄欠乏症リスクについて

 

胃酸分泌抑制薬であるPPIまたはH2ブロッカーを長期服用することで鉄欠乏症のリスクが高まるというデータについては2017年にアメリカの研究チームが7万7000人規模の臨床データを公開しています。

今回は、PPIやH2ブロッカーを長期間服用することで起こりうる鉄欠乏性貧血について調べてみました。


臨床報告

 

アメリカのグループが1999年~2013年に新規で鉄欠乏症と診断された7万7046例について胃酸分泌抑制薬の使用歴と鉄欠乏症のリスクについて報告しています。

 

結果は2年以上胃酸分泌抑制薬を使用した場合

 

PPI服用群(2343人)では何も飲まなかった群(3354人)と比較して、鉄欠乏性貧血となる割合が2.49倍高いという結果となりました。

(PPIの例:タケプロン・パリエット・オメプラール・ネキシウム)

 

H2ブロッカー服用群(1063人)では、何も飲まなかった群(3354人)と比較して、鉄欠乏性貧血となる割合が1.58倍高いという結果となりました。

(H2ブロッカーの例:ガスター・アシノン・アルタット・ザンタック・タガメット・プロテカジン)

 

というデータが報告されました。


PPI使用群に関しては、PPIの服用を中止すると貧血のリスクが低下したと報告されています。また少なくとも10年間はPPIを1.5錠以上飲み続けている群では、鉄欠乏性貧血リスクが4.27倍と高い値を示すデータ記載されています。


食事から摂取される鉄の吸収部位は小腸の近くで行われるのですが、胃酸の量が減ると、野菜や果物に含まれる鉄(非ヘム鉄)の吸収が特に低下することが示されています。そのため長期的に胃酸抑制状態が継続されると、徐々に貧血傾向が進んでいくのかもしれません。

(PPIの長期摂取により鉄分だけでなくビタミンB12やマグネシウムの吸収低下を報告しているものもあります)


とは言え、ストレス社会において胃酸分泌抑制薬は非常に有用な薬ですので、PPIやH2ブロッカーを継続服用する方が多くいらっしゃいます。

薬の副作用に薬を追加することがいいかどうかはわかりませんが、PPIやH2ブロッカーを服用している患者様に対して、貧血対策として鉄剤が処方されるケースはあります。


その際に処方される鉄剤は酸性~塩基性まで幅広いpHで溶けることができる鉄製剤(フェロミアなど)が選択されていることを確認してもいいかもしれません。

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