モーラステープやロキソニンテープは何枚まで貼ることができるのか
「モーラステープは1日何枚まで貼っても問題ないんですか?」と患者様からご質問をいただくことがあります。モーラステープの添付文書には具体的な枚数が記載されておりませんので、同じ成分の内服薬の服用上限値を利用して湿布薬の使用枚数制限を計算してみました。
体内に入ってきた薬の総量(AUC)を排出するために必要な労力を数値化して表示する方法で検討してます。痛み止めとしての効き目の評価ではないことをご了承ください。データはすべてインタビューフォームから引用しております。
血液中のモーラステープ成分の量
モーラステープ(ケトプロフェン)には飲み薬がありません(以前はありました)。国内では坐薬か筋注薬しかありませんので、これを比較対象として考えます。
ケトプロフェン坐剤75mg1本:血中に入ってきた薬の総量15500ng/ml(AUC)
ケトプロフェン筋注50mg1本:血中に入ってきた薬の総量10000ng/ml(AUC)
坐薬は最大150mg(75mgを2本)まで、筋注は適宜増減を含めて4回まで使用可能であることから
ケトプロフェンの最大使用量は10000×4=40000ng/ml
単純計算ではないかとは思いますが、1日40000ng/mlのケトプロフェンを取り込んでも肝臓腎臓を経由して体外へ排泄可能であると解釈できます。
ではモーラステープについて使用枚数について検討します。
モーラステープ20mg8枚(160mg)を24時間貼付すると、血中に入ってきた薬の総量はおよそ18209ng/ml(インタビューフォームのデータ)程度と考えられます。
ケトプロフェンは最大40000ng/mlまで体内に取り入れることが可能ですので、
モーラステープ20mgは1日最大17枚まで貼付しても、一過性であれば肝腎を経由して排泄可能な量であることが分かりました。
添付文書上の計算ではこのような数値となります。しかし、痛み止めの注射と痛み止めの貼り薬では用途がことなります。注射は病院で一過性に投与するものであるのに対し、貼り薬は自宅で毎日貼ることができます。
これだけの枚数は連日にわたり貼付しつづけるとケトプロフェン注射や坐薬の副作用である消化器系の副作用(消化性潰瘍・胃部不快感)や肝機能障害の副作用が出る恐れもあります。
体の痛みは一日や二日では解消されないケースが多々ありますので、連日モーラステープを使用する際は、1日貼付枚数を制限したほうがよいと考えます。
まとめ
腎臓や肝臓への負担を考えたとき、同一成分の内服薬(坐薬)を使用したときに血中に入ってきた薬の総量を比較対象として貼り薬は1日何枚まで貼ることができるのかを検討した結果
ボルタレンテープ100mg:16枚
モーラステープ20mg:17枚
という独自の指標を出すことができました。ロキソニンテープに関しては活性代謝物換算の指標なので参考値程度の計算しかできませんでしたが、以下にしるします。
また、モーラステープ20mg17枚=モーラステープL40mg8.5枚と置き換えますと、モーラステープL40mgを1日6~8枚程度使用している患者さんは、ゼロではない気がします。モーラステープを大量に処方されている患者さんに対しては胃腸障害の副作用や腎機能、肝機能について注意喚起を行うことは有用と感じました。
ちなみに最高血中濃度は筋注をすると6700ng/mlまで上昇し、その後すみやかに下降しますが、モーラステープL40mgを8枚貼ると1800ng/mlの血中濃度が24時間続きます。イメージとしては前者は一過性で負荷がかかり、後者は慢性的に負荷がかかることになります。私としては後者の負荷を連日にわたり続けることは避けた方がいい気がします。
ロキソニンテープのは何枚まで貼ることができるのか?
「ロキソニンテープは1日何枚まで貼っても問題ないんですか?」と患者様からご質問をいただくことがあります。ロキソニンテープの添付文書には具体的な枚数が記載されておりませんので、同じ成分の内服薬の服用上限値を利用して湿布薬の使用枚数制限を計算してみました。
体内に入ってきた薬の総量(AUC)を排出するために必要な労力を数値化して表示する方法で検討します。痛み止めとしての効き目の評価ではないことをご了承ください。データはすべてインタビューフォームから引用しております。
ロキソニン錠
ロキソニンはプロドラッグです。Trans-OH体に代謝されてからNSAIDSとしての効果があらわれます。第一三共へ確認したところ、内服薬のロキソニン錠は肝臓を経てTrans-OH体へ変わって知鎮痛作用を示します。
一方、外用薬のロキソニンは皮膚や骨格筋でTrans-OH体に変わって鎮痛作用を示すことを確認しました。(肝臓や皮膚や骨格筋に存在するカルボニル還元酵素によりロキソニン錠は活性代謝物(Trans-OH体)へ代謝されます)。そこでロキソニンについて考える場合はtrans-OH体の量(実際に効き目がある成分)で考えてみます。
ロキソニン1錠:血中に入ってきた薬の総量2020ng/ml(AUC)
ロキソニン60mgは適宜増減範囲を含めると1日3回1回2錠(合計6錠)まで服用可能と考えられます。血中に入ってきた薬の総量を計算するときに単純に6倍とはならないのですが、1日にロキソニン錠を6錠使用した時のAUCデータがなかったためロキソニン錠1錠を1日6回飲んだものとして計算します。
ロキソニン(内服薬):2020ng/ml×6=12120ng/ml
添付文書の拡大解釈なのですが1日12120ng/mlのロキソニンを取り込んでも肝臓腎臓を経由して体外へ排泄可能であると仮定します。
ロキソニン錠60mg:1錠服用後のTrans-OH体のAUC:2020ng/ml
ロキソニン錠60mg:6T/3×で服用した場合のおおよそのTrans-OH体のAUC:12120ng/ml
排泄
服用から8時間後までに、ロキソニンおよびTrans-OH体の合計として投与量の2~3%が尿中排泄されます。
服用から8時間後までに、肝臓にてグルクロン酸抱合化されたロキソニンおよびTrans-OH体の合計として投与量の37%が尿中排泄されます。
上記を合計して、ロキソニン錠60mgを1錠服用すると、8時過誤までに40%(24mg)が尿中排泄されることがわかります。
ロキソニンテープ
ロキソニンテープ100mg2枚(200mg)を24時間貼付すると、血中に入ってきたTrans-OH体のの総量はおよそ450ng/ml程度(AUC)(インタビューフォームの5日間使用量の平均値として概算しました)と考えられます。これより、ロキソニテープ100mgあたりのTrans-OHのAUCは225ng/mlと概算できます。
血液中に流れるロキソニンTrans-OH体の量について、ロキソニン錠60mgとロキソニンテープ100mgを血中AUC量で比較してみると
ロキソニン錠60mgを1錠服用する=ロキソニテープ100mgを9枚貼付する
上記のようなAUC値となります。あくまで理論値であり、あまり実用的なデータには思えません。そこで次にロキソニン錠60mgまたはロキソニンテープ100mgを使用した後の排泄状況について確認してみます。
ロキソニン錠60mgを1錠服用すると8時間以内に肝臓でグルクロン酸抱合されて24mgが腎臓経由で排泄されます。泌尿器障害関連の副作用発現頻度は0.06%
ロキソニンテープ100mgを貼付すると、貼付期間中は24時間にわたり一定量が尿中に排泄されます。肝臓でグルクロン酸抱合されたロキソニンおよびTrans-OH体の2~3mgが排泄されます。泌尿器障害関連の副作用発現頻度は0.09%
どちらも泌尿器障害に関連した急性の副作用頻度は非常に低く、”頻度不明”と考えられます。
特徴としては錠剤の場合は服用後8時間までに多くが排泄されるのに対して、貼付剤は24時間に渡って一定量が排泄され続けるという違いがあります。どちらの排泄経路が腎臓にとって負担となるかに関する報告はありません。
海外の報告ですが、生涯でNSAIDSを5000錠以上服用すると腎機能が低下する率が8.8倍高くなるというデータもありますので、ロキソニンを含むNSAIDSの使用頻度は最低限とした方が無難です。

連日ロキソニンテープを貼り続けると、貼付部位の皮膚や骨格筋は連日にわたりロキソニンをtrans-OH体に代謝し続けることになります。代謝をし続けることによる皮膚への侵襲性、皮膚障害の副作用に関する記載はありませんので大丈夫なのだと解釈します。
また、ロキソニン錠60mgを1日3回飲んで(2020ng/ml×3)、ロキソニンテープ100mgを1日2枚(450ng/ml)貼るという処方は整形領域でよく目にします。
Trans-OH体のAUCを算出しますと、合計で6510ng/mlのtrans-OH体が1日で血中に流れ込む計算となります。ロキソニンの上限値12120ng/mlと比べますと半分程度です。ロキソニン錠とロキソニンテープの組み合わせは、ボルタレンに比べると安全域が広いのかもしれません。
まとめ
・ロキソニテープ100mgを1枚貼付した時の血中に流れるロキソニンTrans-OH体の量はロキソニン錠60mgの1/10程度です
・ロキソニンテープ100mgを1枚貼付すると24時間にわたって一定量のロキソニンおよびロキソニンTrans-OH体が腎臓経由で尿中に排泄される続けます(ロキソニン2~3mgが排泄される)
・貼付部位が、”かぶれない&短期間”であれば、”ロキソニンテープ100mgの貼りすぎ注意”ということははあまり考えなくていいのかもしれません
・生涯を通じてNSAIDSの使用錠数は5000錠までという報告があります。生涯で、NSAIDSを5000錠以上を使用すると慢性腎臓病となるリスクが8.8倍ほど高くなると報告されていますので、漫然としたNSAIDSの使用は避けた方がいいと思います。
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